ひねくれ者のくだらない話

特に深い意味はない。

ラクトアイスだったときの絶望感を許す会

 どうやら普通の人間は一日にアイスクリームを3個も食べないらしい。

 収入が2倍以上になるとどうも金銭感覚がおかしい。ついでに食欲もおかしくなるらしい。

 

 買い物依存の気が元々あったので貯金なんか出来る筈もない。

 毎週日曜はYahooショッピングでPayPay払い還元率20%の有り難い恩恵を受けるべく、0時になった途端眠りの準備が完璧に整った脳を無理矢理起こし、月曜から土曜まで一心不乱にカートいっぱいに入れた商品を0になるまで無心で決済していく。

 空っぽになったカートの何たる清々しさ…

 

 火曜辺りから注文した品が朝一番に続々届く。

 バチバチアイメイクが素敵なお姉さん、私の太ももと会話するおじさん、いつもニコニコの爽やかお兄さん、密やかにお馴染みの顔ぶれとなった。

 私はこの人達に会うために、一体何を注文したかも忘れてしまった消耗品を、毎週末心の虫を一つ一つ潰すようにボタンを押しているのではなかろうか。

 

 本当に不思議な事が起きる。アメリカのクリスマスプレゼントのように封を開けるとあれ?こんなもの注文したっけ?覚えていないのである。

 街へ買い物に出た時もそう。帰宅して、物凄い重みで肩紐が拷問器具と化したエコバックをそれいけと床にひっくり返す。身に覚えのない菓子、化粧品、服、アクセサリー…。

 5千円という微妙な値段の美容液はとりあえず引き出しに寝かせておいた。

 

 しかし空になった財布、空になったエコバック、空になった菓子袋、どうしてこんなにも気持ちが良いのだろう。パンパンになったクッサクサのゴミ袋を取り替える時の気持ち良さと似ている。

 そうしていつか心も空っぽにすることを目指していきたい。

 

 実家にいた頃、今は亡き徒歩30秒の小さなドラッグストアに毎日のように通っていた。

 あまりにも近いので、お風呂上がりにまだ濡れた髪のまま首にタオルを巻きパジャマで訪れることもしばしばあった。

 そこでは、新作のアイスをチェックすることはもちろんだが、何よりも柔軟剤のサンプルを片っ端から嗅いでクラクラすることが好きだった。

 

 家は貧乏だったため、洗剤にしても何にしても品質関係なく1番安いものを有無を言わさず取り入れられていた。

 洗濯後、畳み終わった自分の服を嗅ぐといつも同じ、フローラルなんだかシトラスなんだかシャボンなんだかよく分からない匂いと謎のカビ臭さと古い洗濯機の目に見えない汚染とでプラマイゼロ(むしろマイナス)のフレイバーがした。

 同級生の女の子からのエレガントな香り、丁寧にアイロンのかかった男の子シャツからのフレッシュな香りがたまらなく羨ましかった。苦くて切ない。

 

 柔軟剤のCMは、お姉さんが呑気なメロディを歌いギンギラの太陽の下で叫んでいるものより、クラシックなお姉さんがドラム式洗濯機に上品にビーズだかなんだかをカッコつけて投げ入れる方が私の好みであった。

 

  踵が大きく余った兄のサンダルをカパカパと鳴らしながら自動ドアをくぐる。入って右に進み、レジのいつものおばちゃんに笑顔で軽く会釈する。

 頭痛薬、TENGA、湿布、水虫、突き当たり左に進む。期待が膨らみ早く歩きすぎて足がもたれかける。いつの日かテレビで観戦した競歩を真似たフォームだった。

 体勢を整え、つまみ、アイス、ジュース、練り物、お豆腐、納豆、突き当たり左に進めば目的地に到着だ。

 ふぅと一息吐くと、1番上の棚の右端から1番下棚のの左端まで丁寧に、まるで花の蜜に誘われる虫のように、むせ返るような極楽を堪能する。たまにご近所さんに遭遇して、なんだか冷ややかな目を向けられたような気もする。流石に小学校までの話。

 

 憧れの柔軟剤を1度だけ母にねだったことがあった。   個人的な選考をくぐり抜け、シックで気品のあるお気に入りのそれは普段の2倍以上する金額だった。

 私の決死のプレゼンに合いの手の如く、激安ケツ切れ不可避トイレットペーパーを片手に要らないとあえなく却下され、目が覚めた。それから私のパラダイスは幕を閉じた。

 

なんだかよく分からないけど、ちゃんと家計簿つけてるからエライ!