ひねくれ者のくだらない話

特に深い意味はない。

クソ

 カビだらけの黄ばんだエアコンが、おしっこのような刺激臭を淡々と排泄している。生ぬるい風が破けた障子を細やかに揺らすのを横目にするが、この腐った空気で肺を満たすのは流石に躊躇うので、ため息も出せない。

 

 私は四畳半の隅っこ一畳に、枕とは反対側へ義務みたく横たわる。両脚を少し曲げ、左腕でもちもちのうさぎを抱き寄せ、右へ左へ落ち着きを探るように寝返りを打った。

 しかし、電気も消せずスマホも置けず目も瞑れないので、今夜も長くなりそうだ。

 

 右を向くと、10回も使っていないピンクとグレーの可愛らしい筋トレ用具がこの実に愚かな三日坊主を憐れむようにしてこちらを覗いていた。

 私も彼らに積もった埃をじっと見つめ返してみるが、虚しいことに今はちっとも体を動かす気になれない。

 

 年明けぶりに父と会った。父と会ってから悪夢ばかり見る。まともにご飯を食べていない。頭に濃く霧がかかっている。

 こんな調子で、腹筋なんてやってもイケメンといちゃつく夢を見られる訳ではないし、腕立て伏せをしたところで腹が満たされる訳がない。ウォーキングを黙々行おうが、このモヤモヤは玄関を開けた瞬間、今まで纏っていた外の空気をあっという間に追いやり私を地獄の熱気で包む。

 

 洋画の字幕の追い方が急にわからなくなり、視線をチラチラとするうちに集中力が切れたり、二の腕にできたたった直径3mmの何かの痕が気になって掻き毟ったり、親しい仲間との下世話でさえ気乗りしなくなってくると、この先のこと全てがどうでもよく思えてくる。

 こんな雑然とした精神で、理想の大人に、自立した生活のために、一体何のために、まあ自分のためだろうけど、大切でもない自分のために、どう頑張ればいいのかわからない。そもそも私、頑張りたいのだろうか。

 

 ろくに恋だの愛だの知らない癖に彼氏とか結婚とか子供とか家族とか、ふわふわした頭で、まるでこれだけが「幸せ」かのように、私はどうかしているのではないだろうか。

 いっそのこと、誰かに私の全思考回路を任せて、うまい具合に操作してもらう方が人生よっぽどマシに歩めるのではないかと思う。ペッパーくんと入れ替わりたい。

 

 とにかく、世間から置いていかれそうな焦りから冷静ではいられず、具体性の無い自由を叫んでみても、誰も振り向いてくれないし誰も助けてくれない、何も得られないと知って、今の自分にとって自由になることは難しい。このようにめちゃくちゃに他人任せなせいだと思う。

 もはや自由を求めること自体、縛られているとさえ感じる。

 自由は求めるものでもなく、かといって与えられるものでもなく、ただそこら辺の生活の一端にあるように、よくよく考えたらあれは自由だったなあと、そのくらい気取らず悠長であってほしい。

 

 浮きも沈みもしない学生気分を廃墟に無理やり飾り付けたような自室の黄ばんだドアとそのドアノブが、たかが他のドアの開け閉めによって、ガタンだのガチャン、だのと小刻みに響き、この部屋のメランコリーをちぐはぐに掻き立ててゆく。

 私はそこまで落ちぶれないのだという心意気へ、その響きはフナムシのようにザワザワと這い蔓延り、夜が増す程迫ってくる。

 そんな気持ち悪さから逃げることもできずにじっと意識していると恐くてたまらないのでこうして文字を書く。スマホがあって良かった。

 

 夜が明ける前に死んでしまいたいと願う。一日の始まりなんてクソくらえなので。

 

 家を激しく打ちつける雨音ではっと目が覚めた。

人が死んだり戦ったり、見知らぬ人おっさんにまさぐられたり、またろくでもない夢を見ている最中だった。

 一体、今何時だろうか。最低な夢が続きそうでまた目を瞑るのは嫌だ。

 

 バイト先の社員が、仕事がてら他の店員の悪口を無駄に大きな声でベラベラと垂れ流し、大声で笑う。たまにその下品な話を振られるのが面倒だ。とはいえ、所詮私のレベルはここなんだ。周りは鏡だとよく言うだろう。確かに周りを見渡し自分を見つめてみれば、案外似たようなもので、心底がっかりしたり、しかし時に緊張がほぐれたり、友のように思えたりすることもあったり。まあこいつは嫌いだけど。

 「レベル」というのは、人をランク付けしているのではなく、ただ道徳心だとか関心だとかその辺の雑念や密かな志の程度のことを指している。

 

 戦争映画のグロテスクなシーンを手で隠してしまうくらい、私は現実にも虚構にも臆病だ。

 

 壊れた電子時計板が「4:30」と表示していた。さすがに鬱やろこれ