ひねくれ者のくだらない話

特に深い意味はない。

雪を見よう

 茶を沸かす温かい音、湿った床、ファンデーションの匂い、ユリの花のむせるような匂い、父親の香水の匂い、母のハンドクリームの匂い、妹のヨダレ痕、訳の分からない爺と婆の写真に向かって膝をつき頭を下げた時のマットのカビ臭さ、フラッシュバック鬱。

 

 雪が見たい。北海道へ行きたい。365日いつ北海道へ訪れても雪が見れるという大間違いの潜在意識が私にはある。大阪より北へ訪れたことがない私にとって関東からはもはやファンタジーの世界なのでそれで良い。

 もう暑さにはうんざりなのだ。まだ7月の初めだというのに外を5分散歩しただけで身体中から汗が噴き出す。しかし近年は北海道でもわりと夏は暑いらしいのでもう地球は終わりだ。

 

 夜眠れない時、急に激しめの雨が降り始めるとテンションが上がる。引きこもっていても、こうして自然を感じることができるのは防音性0アパート唯一の恩恵だろう。

 なんと雷も鳴り始めたではないか。地球のサプライズ精神は素晴らしい。

 

 暗闇の中でiPhoneの光 feat.稲妻といった具合の中、小さい頃をぼんやりと思い出す。

 不愉快な空間で不愉快な思いをし不愉快な人間に囲まれ不愉快を募らせたあの時間。

 たまに電撃のようにあの頃の感覚が身体中を走って気分が悪くなる。宗教二世の苦しみ。

 そんなことを思い出してもしょうがないのになあ。

 

 昨日、帰れない夢を見た。電車の行先を調べても調べても出てこない。友達はみんな帰って行くのに私だけ一人ぼっちで半べそをかきながらYahoo乗換案内で何度も何度もルート検索するが一向に正しい帰り道は示されず、だんだん日が落ちていく。

 目覚めてすぐ調べた夢占いには、誰にでも想像がつくありきたりなことが書いてあったのでそっと閉じた。

 過去のことへのうんたらかんたら。まあそうだろうなあ。でも私はその電車に乗れなくて良かったと心底思う。過去になんて微塵も戻りたくない。ファック過去。ついでに言うと未来へも行きたくない。現在が大事だし落雷にウキウキしてる現在を見逃したくない。

 

 明日の用事をすっぽかし、どうしても北海道へ行きたくなってきた。なんなら今すぐにでも雪が見たい。熊本では決して見られないまっさらで一つ一つ美しい結晶。サラサラでキラキラとした一面。空を見上げれば広すぎる空から恐いくらいとめどなく無限に降り注ぐ雪。温泉に浸かりながらカニと牛乳を両手に北海道の雪を浴びるのだ。

 

 安っぽい屋根に弾かれる安っぽい雨粒の音をぼんやり遠くへ転がしながら眠りについた。