ひねくれ者のくだらない話

特に深い意味はない。

トロピカルなバナナと夜を更かし

 家にバナナが6本。多分家族の中に猿が紛れている。

 

 私のよくある衝動、不必要な物を大量に買ってしまいそうになった。

 そんな時はスーパーを飛び出しドラッグストアを横目に流し百均を必死に見ないように、山こえ谷こえひたすら歩いて辿り着いたのは古びたリサイクルショップだった。

 やはり早足で駆け込む。

 

 自動ドアが開く。大好きな本の匂い。

 「これがないとやっていけないわ」と味わい深く吸い込みながら、ある程度落ち着いたところでじっくり吟味し始める。

 事前にメモをとってあった友達や母のおすすめ、遠い昔に読んだ小説を9冊選んだ。 本の裏面をひっくり返して見ると、全てに110円シールが堂々と貼ってある。この本は顔も知らないおっさんが右手で尻を掻き、ついでに鼻もほじってページをめくったかもしれない。そんな想像は打ち捨てた。

 

 右手に5冊、左手に4冊、弱いシザーハンズのような出で立ちでお会計へ向かった。

  「いらっしゃいませ」と、よくある社訓に謳われているような笑顔で迎えてくれた白髪混じりのおじさんがパサついた指でキーボードをカタカタと叩き、慣れた手つきの割には時折「間違えた」と呟くのでちょっと面白かった。

 

 「ここは手動なのか…POSレジでもなく。」

 詳しく知らないくせに癖に頭の中でそれらしい用語を並べてみてふと玄関口に目をやると、すっかり薄暗くなった外に気がついた。

 行き交う車、学生服のチャリンコ集団、ランニング中のおじいさん、不快な点滅を繰り返すパチ屋、いつの間にか潰れた居酒屋…嗚呼、何かに思いを馳せノスタルジー…には至らず、はやく帰りたい、腹減ったなあと食べ物のことしか考えられなかった。

 

 家に帰ると、お骨拾いかよと突っ込みたくなる程シンとした部屋で両親がチヂミをつついていた。

 

 父が私に開口一番、亭主関白の極みのような表情で「食べろ」と声をかける。

 私が食べないと分かるや否や元々不機嫌なのが更に悪化し不満溢れんばかりの父をよそに、あんなに腹ぺこだったはずなのに仕方なくヨーグルトを食べた。

 

 「やっぱりチヂミ食べればよかった」と嘆く午後10時。ふと、机の上の熟れたバナナが目に入った。

 私はいつだかYouTubeで観た「オーブンでケーキが焼けるのを待つ間に本を読む」という尊い行為を思い出した。どうしても今すぐやりたくなったので、ヨーグルトと茶で無理矢理膨らませたお腹を抱えて材料をかき集めた。

 

【バター不使用

           シナモンバナナケーキ】

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材料

  • 薄力粉 100g
  • ベーキングパウダー 4g
  • バナナ 2~3本
  • 卵 1個
  • 砂糖 30g(はちみつでも◎)
  • 塩 少々
  • サラダ油 40g(半分オリーブオイルでも◎)
  • シナモン 小さじ2

 

作り方

  1. ボウルに卵を割り入れ、砂糖、塩、サラダ油を加える。
  2. 泡立て器でよく混ぜたら主役のバナナを投入、潰し混ぜ合わせる。
  3. 薄力粉、BP、シナモンをふるい入れる。
  4. 好きな型に流し入れ、空気を軽く抜く。
  5. 180℃に予熱しておいたオーブンで様子見しながら30~40分焼き、粗熱を取って完成。

 

 

 型から取り出した瞬間、フワッと香る甘いバナナと犯罪的魅力のシナモンで唾液が大量分泌され今宵もこの世の秩序が保たれた。

 パウンド型がなく仕方なく丸型を使った、楯状火山かと思うほど平らになってしまった。とりあえず粉砂糖ふっとけばそれっぽい。

 明日の朝食べるのを心待ちにして消灯した。

 

 角田光代「愛がなんだ」を読んだ。オーブンのスイッチと共に本の世界へ移住し、終了のアラームでハッと現実に戻る。ケーキは20分で焼けたのに体感時間はものの5分だったように思えた。理想通りのとても価値のある時間が過ごせたようだ。